怪談話でも一席

bousisensei2008-08-12


毎日暑いですね〜!
というわけで、この時期になると思い出す。俺にとってはまさに「この時期にピッタリ」な納涼バンド怪談!


デンデンデンデン・・・(なんか適当なコワイサウンドで読んで下さい)
キャーッ!


ウギャーッ!

バンドでのライブを終え機材を片づけたタカシはメンバーを機材車に待たせ、チャージバックの清算の為、ひとり店に戻った。
ステージから見ていたのでお客さんの入りはある程度わかっていたものの、差し出された封筒は恐ろしいほど薄っぺらだった。
練習に使ったスタジオ代の事を考えると、明らかにバンドの財政はレッドゾーンだ。
タカシのバンド「Loop」はそれまでに組んでいたお遊び程度の仲間とは違って、プロを目指している真剣なメンバーが集まって昨年結成したばかりで、ようやくボチボチ知られるようになってきた所だから、まだ「食っていける」なんて状態ではない。
それでも、今日は演奏が終わった後にメンバーで手売りした自主制作のCD-Rが数枚売れた事で、なんとか次回のライブまでのスタジオ代は工面できる見通しはつく。
「スタッフがいてくれれば・・・」タカシは思った。
バンドのCD-Rの売れ行きは演奏直後が勝負だ。時には演奏中でも気になったお客さんは販売ブースを見に行く事もある。
メンバーが販売も担当するタカシ達のような場合は、このチャンスを逃してしまう事が多い。
演奏が終わったなら、すぐさま次のバンドにステージを明け渡すために、先ずは自分達の楽器を片づけなくてはならないからだ。
「スタッフさえいてくれれば・・・」
突然携帯が鳴った、機材車に乗っているケンイチからだ。
「路上駐車の取り締まりに来たから、先にいつもの店に行くよ。」
この辺りの警察は実に情け容赦ない。バンドの財政が苦しいのも前回のライブの時のレッカー代が大きく響いているのだ。
もうすぐ戻れるのだが、一刻を争うようなケンイチの口ぶりにタカシはシブシブ返事をした。
「わかった、後から追いかけるよ」
表に出たタカシはケンイチ達が本当に行ってしまった事を確認して、「やれやれ」と歩き始めた。
店の前でたむろする一人の女性がふいにタカシに向かって言った。
「あの、すいません」
ライブの時、最前列で見ていた見覚えのある顔だ。
「あなた達のバンドのファンなんです、何かお手伝いさせて下さい」
「え?」
バンドをやっていれば、いつかはこんな事もあるとは思っていた。でも、タカシが思っているよりそれはずっと早くて、申し分ないタイミングだった。
彼女の名前はチヅルといった。
そして、次のライブから「Loop」のCD-R販売ブースがチヅルの指定席になった。

ウギャギャーッ!
この先は恐ろしくて書けません。
タカシ君は恐ろしい過ちを犯してしまいました。
それは、すなわち「バンドのファン」というクソの役にも立たない女をスタッフに迎え入れてしまった、という事です。
たとえ、物販のスタッフと言えどもバンドに関わる人に必要なのは「憧れ」のような「スキスキ目線」ではなく、バシバシ「ダメ出し」が出来る「対等目線」なのです。
そういった人が、もしいたなら、頼んででも参加してもらうべきなのです。
割とそういうスタッフの存在をイヤがる人もいますが「チヤホヤ系」のイエスマン・スタッフみたいな人はホント役に立ちません。なぜなら「アイデア」を持ち込もうとしないからです。CD-Rを売るにしたって「私が大好きなこのCD-Rを」という観点から売ろうとするわけですから、売れない場合「買わない人がおかしい」とさえ思うのです。
思えば、現在我が鬼頭ブラスで制作を担当してる人は、最初ちょっと気分が悪くなる程、言いたい事を言いやがりまして。
「喧嘩売ってんのか?」ぐらい。
で、買ってやろうじゃねえか、とばかりに「じゃあ、オマエやってみろ!」となったワケですね。
「ダメ出し」ってのは「こうした方が良い」「ああした方が良い」ってのがあるから。
で、その後の快進撃はみなさまもご存じの通り。
ホールコンサートにツアーにDVD発売と、今まで出来なかった事をバババッとやってのけたのです。
で、これが「チヅルパターン」だとどうなるか。
恐ろしい物語の後半をお話しましょう。
いわゆる「熱狂的なファン」だから、バンドのやってる事に関しては口を出しません。
何やってもファン、つまらなくてもファン、いつまでも同じ事やっててもファン。
というか「変わらないで欲しい」とさえ思っていたりする。
それにファンだから、スタッフとしての自覚があまりない。
他のファンはそういう所をバッチリ見透かしますから「同じファンなのに何であそこにいるんだ?」という疑問から「イタイ女」「ウザイ女」と煙たがります。あげくに「なんであんな女野放しにしてるんだ」とバンドに対する批判にもなってきます。
この女が打ち上げなんかに引っ付いて来ると、もう「広がり」のような事は望めません。
様々な要因で他のファンが離れたら、むしろシメタもの。
「私だけはファン」という、ものすごい邪魔くさい「理解者」になります。
「どうすれば良いんだろう?」というタカシに「わたしは今のままで充分だと思うよ」という「自分の満足」を語る「クソ理解者」です。
そりゃそうか、ファンだもんな、アンタ。他の人の満足なんて知らんわな。
ケンイチ達他のメンバーは、そろそろ「チヅル菌」が及ぼしている「害」に気付いて、チヅルをバンドと無関係にしようとするのですが、なんとなく居座った「好意と善意」でお手伝いにきた人を明確に「クビ」にする方法が思いつきません。
そして、残念な事に「チヅル病」に犯されてしまったタカシ君は「こんなによくやってくれてるのにオマエら!」と・・・
これでバンドは解散です。
タカシ君とチヅルは付き合う事になるでしょう、そして「うっかり」もしくは「チヅル計画」により、あっという間に子供が出来てしまうでしょう。
家族を養うために、タカシ君はバンドから足を洗う事にしましたとさ。
これが、世にも恐ろしいバンド・ホラーの顛末。
実はホボ実話で、モデルがいるのです。
名古屋時代のバンド仲間にくっついてる「チヅル女」が、俺の小学校の同級生でびっくり。
「え〜!なにしてんの?」って聞いたら「このバンドのスタッフしてる」って・・・
で、ハタから展開をみていたのです。
「絶対プロになる!」とまで言っていたのに、バンドから足を洗う事を決めたタカシ君のモデルに「良いの?」みたいな事を聞いたら「嫁もその方が良いって言ってるし」って・・・
元々、バンドのファンで、タカシ達の音楽を応援する立場だったはずなのに、思いっきり足を引っ張る「クソ女」じゃないか! 

とにかく「ファンはスタッフにするな」という教訓ですね。