なんだこりゃ?

bousisensei2008-07-24


例の「崖の上」を見に行ってきました。
で、感想の前にひとつ。
今回の作品を作るにあたって、というか前回の作品の直後ぐらいから聞いていた話なんだけど「次回作は絵に描いたアニメを作る」という事を「目玉」にしていたみたいですね。
アニメに詳しく無い俺でも、CG全盛のこの時代に、それがどれだけ凄くて意味があるのかって事はわかるのです。
でもね、そんな事は「どうでも良い」とも思うのです。
別にアニメオタクじゃないから、そういった「手法」を見て「スゲー!」とか「感動した!」とかより、やっぱり「映画として」「お話として」良いか悪いか。
「こういうストーリーの映画を作りたいから絵のアニメにしました」ってのならわかるけど、まず「手法ありき」ってのはどうなんだ?
音楽でいうならば、コンサートの「売り」やバンド結成のきっかけが「楽器編成」にあるようなもの。
特定のマニアにはウケるかもしれないけど、一般的には「どうでも良い事」なんじゃないですか?
たとえば、そういった「楽器編成」からくる「制約」のおかげで、普通の編成の音楽より不自由が生じた場合、一般のお客さんは「普通にやれば良いのに」と、やってる側としては「身の蓋も無い」感想を持つのが当たり前だと思うし。
だから、あくまで「動機」としてはアリかもしれないけど、それは継続していくコンセプトにはなりえないと思うのです。
その辺りが「やってる側」が意外に気づかなかったり、麻痺してしまう「おもしろい」に対する感覚かもしれません。
「こういう音楽をやるためにメンバーを集めたらこういう楽器編成になった」って事ならわかるけど。
その辺が、すでに「アニメ界の巨匠」となった監督の「なにをやっても許される」というか「なにかをする」という事自体が評価される(内容云々は置いといて)状況からくる「おごり」っていうか「殿様商売」みたいな気がしていたのです。
で、映画を見終わった感想です。
多少の「ネタバレ」みたいな事も書くので、これから観ようと思ってる人は用心してください。
ある程度「前評判」みたいな物は見聞きしていたのですが(宮崎駿のアヴァンギャルドな悪夢: たけくまメモ
「ちょっと大袈裟に言ってるんだろう」と思っていたのです。
ところが、聞きしに勝る「なんだこりゃ映画」
ちょっと今の時代では考えられない内容です(この「時代」に関しての考察は以前ココで書きました→2007-12-04 - うさぎのえさ
とにかく設定事態が「よくわからない」
一番初めから見ているのに、物語に入りようが無いのです。
とにかく、普通の人が見て「なんで?」「どうして?」と思うであろう事に対しての説明が最後までまったくないのです。
これは「時代」の良し悪しでもあると思うのですが、今あるドラマや映画は、事細かな設定が作られていて、それを時には「必要以上に」説明してきます。時代設定とか人物関係とか。
で、俺たちはそのシステムにすっかり慣れてしまったのでしょうか、説明が無いと実に「とっつきにくい」のです。
それから、今のドラマや映画は設定がキチンとしている分、徹底的に「矛盾」を排除しています。
「つじつまがあわない」なんて事はホトンドありません。
そういった意味でも「崖の上」はめちゃくちゃです。
もし、この夏。海で見つけた「ウミガメ」を水道から汲んだ真水の入ったバケツにブチ込む子どもがいたら、それは宮崎監督の責任です。
とはいっても、これも「時代」の良し悪しかもしれません。
ずーっと昔の「巨人の星」では、小学生の花形満が外車を乗り回していたのです。
今で考えれば「おいおい」と突っ込みたくなるような話ですが、あれは単なる「漫画の記号」だったわけで。
実際、あれを見て外車に乗った子どもはいないでしょう。
外車というのは「大金持ちの息子」という事を表現していただけなのですね。
満足に物を買い与えられなかった貧乏な星飛雄馬との対比としての「漫画ならでは」の表現方法ともいえると思うのです。
つまり、「崖の上」に「入っていけない」というのは、今の時代のシステムに慣れてしまった俺たちが漫画なのに「漫画ならではの表現」を「おかしい」と思うようになってしまったから、とも言えるのですね。
他人の「作り話」に「なんで?」とか「そこ、おかしくない?」っていうのは、所詮ナンセンス以外のなにものでもないのかも知れません。
そうは言っても「崖の上」はあまりにもアバンギャルドです。
映画の予告編や主題歌からイメージされる「夏休みの子ども映画」とは全然違います。
たしかに、主人公の仕草のかわいらしさや「悪い人が出てこない」という点では、十分に「ジブリアニメ」としての体面は保っていますが、引きずり込まれる「宮崎ワールド」はとてつもなく怖い世界です。
(この先、特にネタバレ注意!)
終盤「トンネル」のシーンがあるのですが、結界の効力が無いトンネル内(おそらくそういう設定)を進む内に最初は人間の姿をしていた主人公が「化け物」に戻っていくという場面で、変態していく過程は画面に出さず、身体がだんだん縮んでいく様子を、手に持ったバケツが徐々に地面を引きずるようになっていく「ズルズル」という音だけで表現しているって所があるのです。
で、次に画面に登場した主人公は「化け物」という。
これ、子ども泣くでしょ?怖すぎる。
大人の俺でも、十分トラウマになってます。
で、畳み掛けるように強引なハッピーエンド。
そして「ポ〜ニョ・ポ〜ニョ」と例の主題歌。
え〜っ???
帰りのエレベーターでカップルが「あそこはどういう意味?」「なんとかかんとか〜」「違うって!」
「崖の上」はカップルの喧嘩の種にもなります。
おそらく、テレビの「大ヒット上映中」みたいなCMで、今観てきたお客さんが「感動しました」みたいな感想をいうヤツがあるけど、この映画では無理でしょう。
っていうか「良い映画でした」と即答できる人がいたら是非会ってみたい。
いまだに、なにがなんだか良くわからない。
でも、しかしですよ。
「おもしろくないか?」っていうと「そうでもない」
いや、ホント。見ると良いですよ「崖の上」